ワクラボ News Letter

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Vol.03

インフルエンザとCOVID-19

1.昨シーズンのインフルエンザの流行解析 ■日本 インフルエンザ定点サーベイランスによると、昨シーズンの累積推計受診患者数は約729.0万人(2019年第36週~2020年第17週まで)で、流行ピーク(2019年第52週)の定点当たり報告数は過去2シーズンの約50%と低かった(図)。また、同報告数は2020年第2週以降、継続して減少傾向に転じ、第13週時点で過去2シーズンと比較して急速に減少が示された。インフルエンザ入院サーベイランスでも、2020年第17週までの累積報告数は、前年同週までと比較して少ない状況であった。この結果には、COVID-19そのものや、その流行に対する個人の行動や公衆衛生上の対応により、影響が生じていた可能性がある。 一方、インフルエンザ脳症の報告数(2020年第14週まで)は254例で、過去3シーズンで最多となった。型別ではA型が226例(89%)、B型が2例(1%)、型不明が26例(10%)であった(図)。年齢層別では、10歳未満が71%を占め、過去3シーズン中、最多となった一方で、60歳以上は5%で過去3シーズン中、最少であった。 図. インフルエンザ脳症の型別報告数およびインフルエンザ定点当たり報告数(2017年第36週~2020年第14週) 文献1)より このように、昨シーズンのインフルエンザ流行の規模は小さく、早期から流行終息の傾向がみられたが、インフルエンザ脳症患者(特に小児の割合)は多かったことが注目される。 インフルエンザ病原体サーベイランスによると、シーズン全体に占めるインフルエンザウイルスの型・亜型別割合は、AH1pdm09亜型が86%、B型が12%、AH3亜型が2%の順となった1)。 ■米国 CDCによると、米国におけるインフルエンザの活動性は2019年11月初めから増加し、2019年第51週~2020年第10週までのインフルエンザ検査の陽性率は20%超であったが、3月1日に国家非常事態宣言が発令されると急激に減少した。2019年第40週~2020年第9週の陽性率(中央値)19.34%に対して、2020年第10~20週は0.33%と98%の減少がみられた2)。 一方、2019/20シーズンのインフルエンザによる小児の死亡は189例報告され、2017/18シーズンの188例を上回り、通常のインフルエンザ流行シーズンでは最多を記録した。189例の内訳は、5歳未満が80例(42%)でそのなかの11例はワクチン接種の適応がない生後6か月未満であった。5-17歳は109例(58%)であった。情報のある176例のうち、基礎疾患を有する児は77例(44%)であった。死亡例の3分の2がB型ウイルスの感染であった。 接種対象となる児のうち、ワクチン接種を完了していた児は21%に過ぎず、過去のシーズンと同様の割合である。CDCは、生後6か月以上のすべての者(特に、合併症をきたしやすい5歳未満やハイリスクな状態にあるすべての年齢の児)へ毎年のインフルエンザワクチン接種を推奨している3)。 ■2020シーズンの南半球 オーストラリア、チリ、南アフリカにおいて、南半球の典型的なインフルエンザ流行シーズンである2020年6~8月のインフルエンザの活動性は非常に低かった。3か国合計のインフルエンザ検査陽性率は0.06%(2020年第14~31週)で、2017-2019年同期の13.7%に比べて大幅に低い。COVID-19パンデミックへの対策とインフルエンザワクチン接種が、インフルエンザの発生や影響を低減させることに有効であったと思われる2)。 2.インフルエンザワクチンとCOVID-19 今冬は、インフルエンザとCOVID-19の同時流行が懸念されているが、ワクチンによるCOVID-19への対応戦略として、Ruscio BA & Hotez P4)は、既存のインフルエンザ予防接種プログラムを発展させることを提言している。 2009年のH1N1インフルエンザパンデミック発生時に多くの低・中所得国では、パンデミックインフルエンザワクチンを有効に活用できなかったが、その原因として、パンデミック対応の計画がなかったことや、予防接種キャンペーンの経験・財源・人員・ワクチンの輸送管理体制などの不足により、高い接種率を達成できなかったことなどがあった。一方、季節性インフルエンザの予防・管理プログラムがある国では、備えがあり、より効果的にパンデミックへの対応ができた。 世界の半数以上の国では、未だに、確立された季節性インフルエンザ予防接種プログラムがなく、季節性インフルエンザの流行による死亡や重症例の多くは、グローバル・サウス(南北問題の南にあたる、主に南半球の発展途上国)の国々で発生している。こうしたことへの対応として、WHOは、包括的な「Global Influenza Strategy 2019-2030」を策定し、サーベイランスや予防接種の拡大を含む疾患予防に焦点を当てている。この戦略や既存の世界のインフルエンザ管理の基盤が、COVID-19ワクチン接種にも適用されることで主要なプラットフォームとなる可能性がある。 COVID-19とインフルエンザの予防接種をひと組みにして行うことは、これら二つの疾患が誘因となって起こる呼吸器および心血管疾患による不要な死亡を防ぐうえで、費用対効果が高い手段となると考えられる。Ruscio BA & Hotez Pは、この有効性と費用抑制効果を確認するための保健経済学的モデルの評価、および世界的な導入計画の一部として、二つのワクチンを接種する予備プログラム実施のための計画を開始することを推奨している。 同時に、インフルエンザとCOVID-19の同時流行における疫学や公衆衛生上の介入効果をよりよく理解するために、インフルエンザとCOVID-19のデータベースをリンクさせたり、他の解析ともデータを共有する必要性が高まっているとも述べている。 また、インフルエンザワクチンとCOVID-19の関連を検討した論文が、複数報告されている。それらをレビューした論文を紹介する(表)。 Paget Jら5)は2020年6月15日までの論文をレビューし、昨今のCOVID-19パンデミックにおけるインフルエンザワクチンの有益性に焦点を当てた論文を見出した。主に下記の論文を紹介している。 Skowronski DMら(Clin Infect Dis. May 22, 2020)は、カナダにおける2010/11シーズンから2016/17シーズンまでのデータを用いてtest-negative designの方法で行った研究で、インフルエンザワクチン接種は種々のコロナウイルス感染リスクに何ら影響をもたらさないことを報告した。これは、ワクチン反対派に利用されてしまったWolff GGらの報告 (Vaccine, October 2019)*への反論である。Arokiaraj MC(SSRN. April 10, 2020)は、世界34か国の生態学的研究の解析データから、インフルエンザワクチンの接種率とCOVID-19の死亡率には負の相関があることを示した。Li Qら(Math Biosci. 325: 16108378, May, 2020)は、数理モデルでインフルエンザワクチンの接種率増加は、インフルエンザの流行ピーク期に同時発生する呼吸器疾患のアウトブレイク管理の一助となると分析し、これにより医療資源をより有効に使うことができると結論付けた。 表. インフルエンザワクチンとCOVID-19の関連を検討した主な論文 文献5)より作表 以上から、Paget Jらは、「インフルエンザワクチン接種は、公衆衛生対策の中心として引き続き、促進されることを推奨する。限定的ではあるがエビデンスはあり、COVID-19パンデミックの管理において、インフルエンザワクチン接種は大いに有益な可能性があるからである(例: 鑑別診断のしやすさ、インフルエンザ感染に伴う医療システムや医療機関の負荷を減らすこと)。加えて、インフルエンザワクチン接種は、COVID-19に対して特に脆弱な集団である高齢者を守るために、重要な役割を果たす」と結んでいる。 *Wolff GGらの研究結果は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とは関係はない。 文献 国立感染症研究所、厚生労働省: 今冬のインフルエンザについて(2019/20シーズン). 2020年8月27日. CDC: MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 69(37): 1305-1309, 2020. CDC: Pediatric Flu Deaths Reach New High Mark During 2019-2020. Oct 2, 2020. Ruscio BA, Hotez P: Vaccine. 38(50): 7880-7882, 2020. Paget J, et al.: Vaccine. 38(42): 6485‒6486, 2020.

バックナンバー

Vol.02     

インフルエンザワクチン接種の重要性と院内感染対策~新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備える~

Vol.01     

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)~これまでの知見とワクチン関連の話題~

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