ワクラボ News Letter

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Vol.02

インフルエンザワクチン接種の重要性と院内感染対策~新型コロナウイルス感染症とインフルエンザの同時流行に備える~

1.接種率を高める重要性とその方策―米国 Gostin LO & Salmon DA1)は、米国におけるインフルエンザワクチンの接種状況や接種率を高める方策について、次のように述べ、提言している。 2018/2019シーズンの成人のインフルエンザワクチン接種率は45.3%(推定)と比較的低かったにもかかわらず、CDCの推算によると、ワクチン接種によりおよそ440万人の罹患、58,000人の入院、3,500人の死亡が回避された。高い接種率は、インフルエンザ関連死亡を減少させ、かつ、インフルエンザおよびCOVID-19流行中の医療システムの受容力と機能の維持にも役立つ。逆に、低い接種率は、その年、インフルエンザ患者の低減の機会を逃したことを意味するが、今年そうなるのであれば、特に危険である。 国は、医療従事者やCOVID-19のハイリスク者のほぼ全員が接種を受けることを含め、インフルエンザワクチンの高い接種率達成を目標にすべきである。 それでは、接種率を高めるためには、どうすべきか。さまざまな方策が必要と考えられる。 米国では、COVID-19のパンデミックの影響で小児のワクチン接種率が低下し、2020年1~4月期の接種数は2018~2019年の同時期の平均と比較して、およそ21.5%低下した。医療機関を通常のように受診しなくなると、インフルエンザワクチンの接種率は制限される。また、事業や高等教育の制限も接種率を低下させる恐れがある。これに対して、例えば、薬局注)が出張して接種を実施する、あるいは、学校や大学で接種キャンペーンを実施することで、接種率が向上する可能性がある。 切り札として、予防接種の義務化が考えられるが、The Association of Immunization Managers(AIM)は、義務化は慎重に考慮すべきと助言している。インフルエンザワクチンは、資金・予防接種の登録・安定供給・安全性データ・医療従事者の支援・市民の受容度のいずれもAIMの基準を満たしているものの、義務化はされていない。 教育施設に関しては、6つの州で保育園児にインフルエンザワクチン接種が求められているが、幼稚園から高等学校で義務化している州はない。しかし、多くの高等教育施設では、安全な学校再開にあたり、マスク・体温スクリーニング・COVID-19の検査とともに、インフルエンザワクチンを新たに義務付ける計画を策定中である。 事業体に関しては、米国の労働安全衛生局が、雇用条件にインフルエンザワクチン接種を設定することを許可しているが、雇用機会均等委員会では、医学的理由や宗教上の信条による免除を求めている。同時流行下では、事業者は、雇用者に対して適切な免除を付帯して接種を課す可能性がある。 医療施設に関しては、2018/2019シーズンの医療従事者のインフルエンザワクチン接種率は81.1%であったが、同時流行下では、医療従事者と患者の安全に重点を置くため、より高い接種率を国の優先事項とすべきである。 米国では、COVID-19ワクチンが2021年1月までに供給される予定であるが、COVID-19の集団免疫確立には、接種率55〜82%が必要とされており、インフルエンザワクチンでの接種率向上の経験は、COVID-19ワクチンでも役立つものとなるであろう。 注)米国では、薬局で薬剤師が予防接種を実施することが可能である。日本では認められていない。 2.院内感染対策 被接種者が、COVID-19への感染の不安を解消し、安心してインフルエンザワクチンの接種を受けられるようにするには、「安全な予防接種の実施場所」1)をつくること、すなわち院内感染対策が重要になる。インフルエンザワクチンに限らず、COVID-19ワクチンが接種可能となった場合にも適用できる。 新型コロナウイルス感染症の流行期における院内感染対策は、日本医師会2)や日本環境感染学会3)が発行しているガイドが参考になる。これらのガイドからポイントを抜粋して紹介する。 ■標準予防策の徹底 感染対策の基本となるのは標準予防策の徹底であり、新型コロナウイルス感染症には極めて重要である2), 3)。 ①手指衛生:すべての診療場面において、適切なタイミング(参考: WHOの5つのタイミング4)表)でアルコールによる手指衛生を徹底する2), 3)。SARS-CoV-2はエンベロープを有するため、アルコール(エタノール濃度 60~90%、イソプロパノール 70% を推奨)を用いた手指消毒、石鹸と流水を用いた手洗いのいずれも有効である3)。 表. 医療従事者が実施すべき手指衛生の5つのタイミング(WHO) 文献4)より ②ユニバーサルマスキング:常にサージカルマスクを着用する2)。すべての職員が院内で常時着用することを検討する3)。 ③個人防護具(PPE: Personal Protective Equipment):「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド」では、通常の場面として、眼・鼻・口を覆うPPE(アイシールド付きサージカルマスク、あるいはサージカルマスクとゴーグル/アイシールド/フェイスガードの組み合わせ)、キャップ、ガウン、手袋の装着(図1)を示している3)。 図1. 通常の場面のPPE 文献3)を参考にして作図 なお、キャップの装着は必須ではなく(患者の飛沫を直接浴びる可能性があるとき、髪の量が多い女性などに推奨)、シューズカバーの使用は、脱ぐ際の手指への汚染リスクの観点から推奨されていない2), 3)。COVID-19の患者が来院し、とっさにPPEを着る場合に備え、着脱に慣れておくこと2)も必要である。 ■外来患者への対応(疑い例の識別と対応) 受診方法の掲示:新型コロナウイルス感染症を疑う症状※がみられる患者に対し、受診の方法(受付の場所、事前連絡の必要性や方法など)を病院ホームページや入口付近に掲示物等で案内するようにする3)。また、症状の有無によらず、予約外の患者については、事前に電話してから受診するよう周知する2)。 施設に入る前:すべての外来受診患者に対して、病院入口や受付などで新型コロナウイルス感染症を疑う症状※の有無について、体温測定や問診票を用いるなどして確認することが望ましい。その結果、新型コロナウイルス感染症を疑う症状※のある患者にはサージカルマスクを着用してもらい、他の患者とは一定の距離を保つことが可能な専用の待機所に案内する3)。 ※新型コロナウイルス感染症を疑う症状: 発熱、咳、呼吸困難、全身倦怠感、咽頭痛、鼻汁・鼻閉、味覚・嗅覚障害、眼の痛みや結膜の充血、頭痛、関節・筋肉痛、下痢、嘔気・嘔吐など ■院内の整備と対策 受付のカウンター上に、待合室と仕切る透明ビニールを垂らすか、アクリルのパーティションを置く。 院内全域の換気を行い、エアコンはできるだけ切っておく注)(フィルターの汚染や空気撹拌防止)。 待合いの椅子を離して設置する。 できるだけ物を片付け、消毒液を含むクロスや紙で拭きやすくしておく。 患者が触れやすい、ドアノブ、便座、流しハンドルなどは何もなくても定期的に清拭する(図2)2)。 編集部注)換気と室内温度維持の両立を図ることが必要と考えられる。 図2. 院内感染を防ぐための院内整備 文献2)を参考にして作図 ■動線や時間の分離 症状のある患者については、できるだけ他の患者と接触しないように、いったん院外に出ていただく。軽症であれば指定時間に再度来院していただくよう指示する。肺炎などがあり、転送の必要な患者は、院内で隔離できる部屋がある場合、そこへ入れる。 患者の対面診療を行うときは、他の患者との動線を完全に分離した場所に案内するか、あるいは駐車場に戻り、自分の車で待っていただく。車で来院していない患者のために、症状のある患者を診療するためのテントや車両を駐車場に配置することも考えられる。そのうえで、適切な感染防御をしたうえで診察を行なう。 動線が分けられない場合は、症状のある患者を診療時間外に診るなど、症状のない患者と時間的に分離することも必要である2)。 ■環境消毒 新型コロナウイルス感染症が確定または疑われる患者の周辺の高頻度接触環境表面や、患者の皮膚に直接接触した器材(血圧計や体温計)は、アルコール(濃度60% 以上)や次亜塩素酸ナトリウム溶液(濃度0.1% 〜0.5%)を用いて清拭消毒する。患者の皮膚と直接接触する器材の使用は必要最小限に止める。消毒薬の噴霧は行わない。また、床や壁などを含む大掛かりかつ広範囲の消毒は不要である。患者が不在の場合、環境消毒を行うスタッフは手袋とガウンを着用する。無症状の濃厚接触者が触れたモノや環境表面の消毒は不要である3)。 本稿で紹介した院内感染対策は、一部抜粋であり、詳細は文献2), 3)を参照されたい。また、日本環境感染学会のホームページでは、中小病院および高齢者福祉施設で活用できる「新型コロナウイルス感染症の院内・施設内感染対策チェックリスト」が公開されており、活用が勧められている5)。 文献 Gostin LO & Salmon DA.: JAMA. 2020 Jun 11. Online ahead of print. 公益社団法人 日本医師会: 新型コロナウイルス感染症外来診療ガイド第2版. 2020年5月29日. 一般社団法人 日本環境感染学会: 医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版. 2020年5月7日. WHO: My 5 Moments for Hand Hygiene. About SAVE LIVES: Clean Your Hands.一般社団法人 日本環境感染学会:「新型コロナウイルス感染症の院内・施設内感染対策チェックリスト」を公開しました. 2020年7月22日. http://www.kankyokansen.org/modules/news/index.php?content_id=364

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